齋藤ラボで働くことを希望する方へ

研究活動に決まったルールはありませんが、以下が、私がPIとしてラボメンバーに助言することです。
私のラボにアプライする前に目を通していただけると幸いです。

1. アカデミアで科学することは、アスリートや芸術家として生計を立てることと同じです。

 自然界の法則を新たに発見するということはその発見の大小問わず極めて難しいことで、皆が成し遂げられることではありません。プロのサッカー選手になりたい子供は多くいるでしょうが、皆がその夢を実現できるわけではないのと同じです。音楽家や画家のような芸術家についてもこれは同じでしょう。現代生物学は産業や医療との結びつきが強く、また大学であれ研究所であれ多くの事務の方々と共に働いている環境では、定時業務をしてさえいれば成功をおさめられると錯覚しがちです。アスリートや芸術家は、引退するまで常にアスリートであり芸術家です。意識のあるかぎり、常に科学者であることを心がけましょう。

2. できるだけ献身的に研究しましょう。

 新しい自然界の法則を解き明かすためには、才能と献身(そして運)が要求されます。才能を変えることはできないでしょうが、献身的になることはできます。運も制御できないので、私は不運 (bad luck)に付け入る隙を与えないように、徹底的にやります(宝くじを100%確実に当てる方法は、くじを全部買い占めることです)。ちなみに私のポスドク時代のメンターFeng Zhangは「未来から来た少年」と呼ばれていますが、大学院生・ポスドク時代は朝5時頃には実験を始めていたと聞きます。「神の子」リオネル・メッシも、報われるまで努力する必要があると述べています。こうした超人たちすら献身的に活動しているのですから、私自身は狂気的に科学に献身する必要があると日々感じています。。。

3. 時間を忘れて楽しめるプロジェクトに取り組みましょう。

 では、どうしたら献身的になれるのでしょうか?時間を忘れて楽しくやれるものを研究しましょう。そもそもアカデミアで科学をするにあたって、自分は何かを犠牲にして頑張っているのだと感じるようであれば、根本的にズレていると私は感じます。アカデミアにおける研究は自分の知的好奇心を満たし、得られた知見を活用して人類の生活をより豊かにしようという一種の奉仕精神から行うものであって、苦しみに耐えながら無理して続けるものではありません。楽しんでやっていれば、結果にかかわらず人生に悔いはないはずですし、不思議なことに、そうやって楽しんでやっている人はどんな分野においても大体何か大きな成功をおさめる傾向にあります。

4. 実験前に実験は終わっています。

 やりたいことが決まったら、いよいよ実験です。手を動かす前に頭を動かしてください。その実験で本質的に新しい知見は得られますか?適切なポジコンとネガコンは存在して、得られたデータは論理的に解釈可能ですか?必要な試薬は全てありますか?測定装置は機能していますか?そして、、、あなた自身はその実験を行うことにワクワクしていますか?実験の最中に試薬の物乞いを始める人を見かけますが、「この人はカレーを作る時に必要なスパイスあるいはルーを買わずに料理を始めるのだろうか」、と私はいつも不思議に思います。準備不足の実験からは正しいデータが得られず、適切に解釈できないので全てが無駄になってしまいます。税金にもとづく研究費と企業からの助成金によって我々は研究できているのですから、生産性を最大化する努力をしましょう。

5. 自分の仕事に責任を持ちましょう。

 自分で決めたプロジェクトに取り組んでいるわけですから、仕事が上手くいかないのは、あなた自身の責任です。あなたが手を動かしているところや、間違ったコードを書いていることをつぶさに観察して間違いを指摘することは難しいです。ケアレスミスを防ぐために、集中して作業に取り組みましょう。あなたがやっている実験と研究テーマについて世界で一番詳しいのはまぎれもなくあなたです。

6. 自分にも他者にも前向きな態度を心がけましょう。

 言動とマインドセットは行動と結果を完全に支配します。どんな大きな目標でも、できると思えば、達成するよう必死に努力しますし、できないと思えば、言い訳しながら怠け始めるため、絶対に達成できません。特に、大きな目標に向かって頑張っている人に対して否定する言葉をかけること(ドリームキラーと呼びます)は、あなた自身が達成できないと公言しているのと同じで、みっともないのでやめましょう。きっとあなた自身にはできないのでしょうが、それは他の人にも同様にできないということを意味するわけではありません。私の好きな格言に「努力する人は希望を語り、怠ける人は不満を語る」(井上靖)というものがあります。

7. 科学を楽しみましょう。

 生命科学は楽しく、人生を賭けて取り組む価値のあるものです。あなたが今晩ゲルの上で出会うバンドは、人類が初めて観測する反応産物かもしれません。あなたが今チューブの中で行っている化学反応は、十数年後に患者さんの身体の中で同じように起こって、その命を救うかもしれません。今日のあなたの小さな研究活動の中に未来の人類の大きな幸福を夢見ましょう。

色々と述べましたが、他者の考え方を尊重した上で楽しく自由に研究してもらい、あなたが夢を実現するにあたって私の研究室での経験が何らかの役に立つことを、PIとして願っております。

齋藤諒

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